こんな判決がありました
生成AIで自分の声を無断でまねした動画を投稿されたとして、人気声優が動画投稿アプリの運営会社に動画の削除を求めた裁判で、東京地方裁判所は2026年9月30日、「人の声は、肖像と同様に個人の人格の象徴」だとして、声もパブリシティ権の保護の対象になるという初めての判断を示しました(裁判所ウェブサイト)。一方で、削除の請求そのものは退けました。問題になった動画は2024年7月から2025年9月にかけて188本投稿され、投稿したアカウントのフォロワーは約21万人にのぼっていました。
判決の内容を解説
パブリシティ権とは
パブリシティ権は、有名人の氏名や肖像が持つ「人を引きつける力」を、本人が独占して利用できる権利です。最高裁判所平成24年2月2日判決(裁判所ウェブサイト)、歌手のデュオが写真を無断で使われたとして争った事件で、この権利を認めたうえで、次のような場合に、もっぱらその力を利用する目的での無断使用として違法になると示しました。
- 写真などそのものを、商品として販売する場合
- 商品を他と区別するために、肖像などを付ける場合
- 肖像などを、商品の広告として使う場合
これまで対象として争われてきたのは、主に氏名や写真でした。声がこの権利の対象になるかを正面から判断した裁判例は、これまでありませんでした。
声も「人を引きつける力」を持つ
今回の判決は、声にも人を引きつける力があり、もっぱらその力を利用する目的で無断で使えば、パブリシティ権の侵害になり得ると判断したと報じられています。原告側の主張では、問題の動画は月に50万〜75万円ほどの収益を上げていたとされています。
法務省の検討会が2026年8月にまとめた解釈の指針も、声を同じ枠組みで判断するとしています。似た声であっても、似ている程度と、本人を思い起こさせる情報(キャラクターの名前や決めぜりふなど)とを合わせて本人だと分かれば、「声の使用」にあたるとしています。AIによるナレーションや歌のカバーは、侵害の例として挙げられています。
それでも削除が認められなかった理由
報道によると、投稿者は2026年5月ごろにアカウントを削除し、6月末にはサーバーからもデータが消えていました。裁判所は、既に対象動画が削除されていることが証拠上認められるとして、投稿記事削除請求を退けました。動画が実際に権利を侵害していたかどうかの個別の判断は、示されませんでした。原告側は、規範が初めて示されたことに意義があるとして、控訴しない方針と報じられています。
注意点・弁護士の見解
声や姿を使われる側の方へ:削除は「残っているうち」に
今回の判決から学べる最も大切な点は、削除を求められるのは、問題の動画が残っているうちだけだということです。法務省の指針も、侵害がすでに止まっている場合には、差止めの必要性は否定されやすいとしています。
無断でまねされた動画を見つけたら、次のことを急いでください。
- 記録を残す:動画のURL、投稿日時、アカウント名、再生回数やフォロワーの数、画面や動画そのものを保存する
- プラットフォームに申し出る:大規模なSNSは、情報流通プラットフォーム対処法により、削除の申出を受けてから7日以内に対応を判断して通知しなければなりません。各社も独自の窓口を設けています
- 削除だけでなく、損害賠償も考える:今回の原告は削除だけを求めていましたが、動画が消えた後も、損害賠償の請求は残ります。そのためにも、投稿者の特定に必要な記録が消える前に動くことが大切です
プラットフォームの側でも対策が進んでいます。TikTokは2026年9月から、本物に見えるAI生成コンテンツにラベルを付けることを義務づけ、ラベルのないものは削除などの対象としています。YouTubeは、AIで自分の声や顔を作られたり改変されたりした本人が、プライバシーの侵害として申し立てられる窓口を設けています。
所属事務所との関係も確認を
パブリシティ権の使い方を所属事務所に任せる契約を結んでいる場合、誰が削除や賠償を求めるのかが問題になります。一方で、声をみだりに使われない人格的な利益は、本人にしか主張できない部分もあります。いざというときに慌てないよう、契約の内容を確認しておくことをお勧めします。
AIの声で動画を作る方へ:「AIだから別人」は通用しない
今回の裁判で、被告側は「投稿者が友人の声を学習させた、ありふれた男性の声だ」と反論していました。しかし、先ほどの指針のとおり、似ている程度と、キャラクター名などの本人を思い起こさせる情報とを合わせて本人だと分かれば、声の使用にあたり得ます。「AIで作った別人の声だから問題ない」という言い分は、通用しない可能性が高いと考えるべきです。
なお、自分がものまねをしていると名乗ったうえでの声まねは、原則として侵害にならないと整理されています。問題になるのは、本人の声であるかのように見せ、その人気を利用して視聴回数や収益を稼ぐ使い方です。
また、本人の出演作の音声などを無断でAIに学習させて使えば、声優などの実演家が持つ権利(著作隣接権)の侵害になる可能性もあります。著作権法は、こうした侵害に10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金という刑事罰を定めています(119条)。
損害賠償の額は、使用料に相当する額などをもとに計算されることが多いとされています。そのうえ、プラットフォームの規約に違反すれば、動画の削除や収益化の停止を受けることもあります。人気の声を借りて稼いだ収益は、そのまま法的なリスクになり得ます。
声の無断利用に、弁護士ができること
- 削除の申出:無断でまねされた動画について、プラットフォームに削除を求めていきます
- 投稿者の特定:発信者情報開示命令の手続きにより、投稿者の特定を目指します
- 損害賠償の請求:投稿者が特定できた場合の賠償の請求について、ご相談いただけます
- 契約の点検:所属事務所との契約で、権利の管理や請求の担い手がどう定められているかの確認をお手伝いできます
ネット上の投稿の削除や投稿者の特定は、弊所が特に力を入れている分野です。被害に気づいたら、記録を残したうえで、早めにご相談ください。
まとめ
生成AIで、誰でも簡単に他人の声をまねできるようになりました。今回の判決は、声もその人のものとして守られることを初めて示した、大きな一歩です。ただし、権利があっても、動画が消えてしまえば削除は求められません。被害に気づいたら、すぐに記録を残し、動くことが何より大切です。
声をまねされてお困りの声優・タレント・配信者の方、所属事務所の方は、アークレスト法律事務所にご相談ください。
※本コラムは2026年9月末時点の情報に基づいています。判決文はまだ公表されておらず、内容は報道に基づきます。
監修者
山下 晃生 弁護士
第二東京弁護士会所属(登録番号:58233)
岡山県立岡山朝日高校卒業、中央大学卒業、明治大学法科大学院修了。
平成29年司法試験に合格、平成31年1月に弁護士登録し(71期)、神奈川県の法律事務所に入所。離婚問題を主に取り扱う。
令和2年3月に弁護士法人アークレスト法律事務所に入所し、その後ネットトラブル及びオフィスの原状回復請求減額交渉を中心に幅広く関わる。
ゲーム・アニメ・同人文化にも明るい。

