こんなニュースがありました
学習塾の業界団体である公益社団法人全国学習塾協会は2026年9月24日、子どもへの性暴力を防ぐ体制を整えた塾を独自に認証する「こども安全塾認証制度」を創設したと発表しました。申請の受け付けは11月16日から始まる予定です。背景には、2026年12月25日に施行される「日本版DBS」と、学習塾で相次ぐ盗撮・わいせつ事件があります。
ニュースの背景を解説
塾で相次ぐ事件
学習塾での性被害は、この数年、繰り返し報じられています。
- 大手中学受験塾の元講師が、教室内で女子児童12人を盗撮するなどし、2024年3月に東京地裁で執行猶予付きの有罪判決を受けました。運営会社は全校舎へのカメラの導入を発表し、導入までの間は授業を2人体制にしたと報じられています
- 個別指導塾の元教室長が生徒10人を盗撮し、2024年3月にさいたま地裁で有罪判決を受けました。この元教室長には、盗撮に関する罰金の前科があったと報じられています
- 2026年8月には、塾のトイレに小型カメラを仕掛けた学習塾の経営者が、鹿児島地裁で執行猶予付きの有罪判決を受けました。9月には横浜市で、塾の講師が生徒への不同意わいせつの疑いで逮捕されています
※報道ベースでの確認であり、控訴やその後の捜査で不起訴になるなど判断が変わっている可能性があります。
警察庁の統計によると、20歳未満が被害者となった性的姿態撮影処罰法違反(いわゆる盗撮)の検挙は、2025年に3,958件、被害者は3,221人にのぼり、前年から増えています。
日本版DBSとは——塾は「任意」、小さな塾は「対象外」
日本版DBSは、「こども性暴力防止法」(正式名称:学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)に基づく制度です。子どもと接する仕事に就く人に性犯罪の前科がないかを、事業者が国を通じて確認します(詳細:こども家庭庁Webサイト)。
学校や認可保育所などは確認が義務になります。これに対し、学習塾やスポーツクラブなどの民間の事業者は、国の認定を受けた場合にだけ制度の対象になります。認定を受けるかどうかは任意です。
しかも、認定を受けるには、子どもに教える人が3人以上いることなどの要件があります。講師が1人や2人の小さな塾は、そもそも認定を受けることができません。フランチャイズの塾も、加盟店が本部とは別に申請する必要があり、教える人が3人未満の加盟店は認定を受けられません。
業界団体の認証制度は何を見るのか
協会の認証制度は、この隙間を埋めようとするものです。塾の規模や講師の人数を問わず申請でき、次の6項目がすべて求められます。
- 性暴力が疑われる場合の報告・対応のルール
- 疑いが生じたときの対処規程
- 従事者への研修
- 子どもや保護者の相談窓口
- 防犯カメラの設置(難しい場合は心理適性検査)
- 従事者の誓約書
ただし、協会の認証では、講師の性犯罪の前科は確認されません。前科の確認ができるのは、国の制度である日本版DBSだけです。
注意点・弁護士の見解
マークで分かること、分からないこと
国の認定マークも、協会の認証マークも、その塾が子どもを守る体制づくりに取り組んでいることを示すものです。ただし、マークがあれば安全、なければ危険、と単純には言えません。
- 日本版DBSで確認できるのは、有罪が確定した前科だけです。確認できる期間にも限りがあります(拘禁刑(改正前刑法の懲役刑)の実刑は刑の終了から20年、執行猶予は裁判の確定から10年、罰金は10年)
- 前科のない人による最初の加害は、前科の確認では防げません
- 経営者本人が加害者となった事件もあります。社内の確認の仕組みが働きにくい場面です
- 国の認定の申請が始まるのは2026年12月25日で、審査には1〜2か月かかるとされています。認定を受けた塾が出てくるのは、早くても2027年に入ってからです
つまり、前科の確認は大切な一歩ですが、それだけで子どもを守ることはできません。教室に死角を作らない、講師と子どもを密室で二人きりにしない、相談しやすい窓口を置くといった、日々の環境づくりが欠かせません。
塾の経営者・講師の方へ
まず知っておいていただきたいのは、講師が事件を起こせば、運営する会社も責任を問われうるということです。従業員がその事業の執行に関して他人に損害を与えた場合、使用者も賠償責任を負うのが原則です(民法715条1項本文)。
そのうえで、認定や認証を申請する前に、今すぐ着手できることがあります。
- 採用の書類を見直す:こども家庭庁のガイドラインは、採用過程で性犯罪歴が無いことを書面等で確認する、内定取り消し事由をあらかじめ明示する等、事前の確認・対応を行わないと、後から前科が分かり内定取消しを行ったとしても、直ちに内定取消しが有効と認められない可能性があるとしています。募集要項への明記、誓約書での確認、就業規則の整備が勧められています
- 「してはいけない行為」を規程にする:ガイドラインは、SNS上で私的なやり取りを行う、子どもと二人きりで私的に会うこと、私物のスマートフォンでの業務外の撮影、不必要な身体的接触を、不適切な行為の例に挙げています
- 防犯カメラは正しく設置する:撮影の目的を決め、撮影していることが分かるように掲示する必要があります(個人情報保護法)。ガイドラインは、トイレや更衣室は入口だけを撮影すること、映像を操作できる人を限定することを求めています
- 疑いが出たときの手順を決めておく:子どもの安全を最優先に、疑われた講師と子どもの接触を一時的に避けつつ、調査は公正に行う必要があります。懲戒や解雇には、個別具体的な事案ごとに客観的に合理的な理由が必要です(労働契約法15条・16条)
防犯カメラは、子どもを守るだけでなく、身に覚えのない疑いをかけられた講師を守る証拠にもなります。真面目に教えている講師が安心して働ける環境をつくることも、体制づくりの大切な目的です。
保護者の方へ
塾を選ぶとき、入塾の前に次の点を尋ねてみてください。はっきり答えられる塾は、対策に取り組んでいる塾です。
- 個別指導や面談は、外から見える場所で行われているか
- 講師と子どもが、個人のSNSやメッセージアプリで連絡を取ることを禁じているか
- 子どもや保護者が、教室の責任者以外にも相談できる窓口があるか
- 国の認定や、業界団体の認証を受ける予定があるか
もしお子さんから被害を打ち明けられたら、問い詰めたり、同じ話を何度もさせたりしないでください。繰り返し聞かれることで、記憶が変わってしまったり、子どもがさらに傷ついたりするおそれがあります。落ち着いて話を受け止めたうえで、早めに専門の窓口に相談しましょう。性犯罪・性暴力の被害は、全国共通の「#8891」(ワンストップ支援センター)や、警察の「#8103」で相談できます。
時間の制限にも注意が必要です。盗撮(性的姿態等撮影罪)は、3年たつと起訴できなくなります。不同意わいせつ罪は12年で、被害者が18歳未満の場合は18歳になるまでの期間が加わります。損害賠償の請求にも、損害と加害者を知った時から3年または5年という期限があります。
性被害をめぐるトラブルに、弁護士ができること
塾の経営者の方から
- 事件・疑いが生じたときの対応:事実の調査、被害を受けた子どもと保護者への対応、疑われた講師への対応について、ご相談いただけます
- ネット上の風評への対応:事件をきっかけに、事実と異なる書き込みや、無関係の講師を名指しする投稿が広がった場合、削除の申出や投稿者の特定の手続きを進めることができます
保護者の方から
- 損害賠償の請求:加害者本人や、塾の運営会社に対する請求を検討します
- 画像が流出した場合の対応:盗撮された画像がネットに投稿された場合、削除の申出と投稿者の特定の手続きを進めることができます
ネット上の投稿の削除や投稿者の特定は、弊所が特に力を入れている分野です。
まとめ
子どもが安心して学べるはずの塾で、信頼していた先生から被害を受ける——。あってはならないことが、現実に繰り返されています。国の制度も業界の認証も、ようやく動き出したところで、どちらにもまだ隙間があります。
その隙間を埋めるのは、塾の側の日々の環境づくりと、保護者の側の「確かめる目」です。体制づくりに取り組みたい塾の経営者の方、お子さんの被害でお悩みの保護者の方は、アークレスト法律事務所にご相談ください。
※本コラムは2026年9月末時点の情報に基づいています。
監修者
山下 晃生 弁護士
第二東京弁護士会所属(登録番号:58233)
岡山県立岡山朝日高校卒業、中央大学卒業、明治大学法科大学院修了。
平成29年司法試験に合格、平成31年1月に弁護士登録し(71期)、神奈川県の法律事務所に入所。離婚問題を主に取り扱う。
令和2年3月に弁護士法人アークレスト法律事務所に入所し、その後ネットトラブル及びオフィスの原状回復請求減額交渉を中心に幅広く関わる。
ゲーム・アニメ・同人文化にも明るい。

