「独身」と偽られて交際——相次ぐ判決から読む、既婚者にだまされたときの責任追及

男女・恋愛トラブル

こんな判決がありました

独身だと偽った男性と交際し、出産した女性が男性を訴えた裁判で、東京地方裁判所は2026年6月23日、男性に慰謝料400万円を含む約466万円の支払いを命じたと報じられています。裁判所は、性的な関係を持つ相手を自分で決める権利(いわゆる貞操権)が侵害されたと認めたとされています。

相次ぐ判決と、その背景

独身偽装をめぐる判決が相次いでいる

独身だと偽って交際した既婚者の責任を認める判決は、この1年ほどの間にも相次いで報じられています。

  • 東京地裁 2025年12月8日:マッチングアプリで知り合い4か月交際した事案。発覚後に相手はLINEをブロック。約151万円
  • 東京地裁 2026年6月23日:交際相手の女性が出産した今回の事案。約466万円
  • 名古屋地裁 2026年7月21日:婚活アプリで知り合い、女性の子どもにまで「結婚するから大丈夫」と告げていた事案。121万円
  • 東京地裁 2026年9月11日:「離婚することになっている」と偽って婚約し、女性が出産した事案。308万円

※報道ベースでの確認のため控訴により判断が変わっている可能性があります。

金額に幅があるのは、結婚の約束があったか、妊娠・出産に至ったか、偽装がどこまで手の込んだものだったかといった事情が考慮されるためです。婚約や出産まで至った事案では、数百万円の賠償が認められた例もあります。

出会いの主流はアプリ、でも独身の確認はほとんどされていない

国立社会保障・人口問題研究所の調査では、「ネットで」知り合って結婚した夫婦の割合は、2015〜18年の結婚では6.0%でしたが、2018〜21年の結婚では13.6%に倍増しました。こども家庭庁の2024年の調査では、既婚者2,000人に配偶者と知り合った場所を尋ねたところ、最も多かったのがマッチングアプリ(25.1%)でした。

一方、同じ調査で、アプリの利用時に身分証明書を登録した人は65.9%いたのに対し、独身証明書を提出した人は9.1%にとどまっています。出会いの形は大きく変わったのに、相手が本当に独身かを確かめる習慣は追いついていないのが実情です。被害者の支援団体には、数百件の相談が寄せられているとも報じられています。

注意点・弁護士の見解

独身と偽ること自体が「貞操権」の侵害になり得る

相手が既婚者だと知っていれば交際や性的な関係を持たなかったのに、独身だとだまされて関係を持たされた場合、性的な関係を持つ相手を自分で決める権利(いわゆる貞操権)の侵害として、不法行為(民法709条・710条)に基づく慰謝料を請求できる可能性があります。婚約が成立していたと認められれば、婚約の不履行として別の責任も問えます。

婚約は口約束でも成立し得ますが、相手は「結婚の約束はしていない」と争ってくることが少なくありません。指輪の授受、両親へのあいさつ、結婚式場や新居の相談など、結婚の約束を裏づける事実を、日付とともに記録しておくことが大切です。

注意点:相手の「LINE」しか知らない場合は要注意

慰謝料を請求したり裁判を起こしたりするには、相手の氏名と住所が分かっていることが基本的に必要です。ところが、マッチングアプリで知り合った相手については、LINEのアカウントしか知らないということも少なくありません。

LINEの1対1のトークは、不特定の人に向けた発信ではないため、ネット上の投稿者を特定するための「発信者情報開示請求」(情報流通プラットフォーム対処法)の対象にならないと考えられています。LINEの運営会社は、弁護士会照会があれば登録情報の開示を検討するとしていますが、条件があり、強制力もないため、回答が得られるとは限りません。LINEのアカウントが分かっているだけでは、相手を特定できないことが多いのが実情です。

一方で、相手の電話番号か住所が分かっていれば、損害賠償請求などが可能になるケースがあります。電話番号が分かっている場合、弁護士が弁護士会を通じて携帯電話会社に契約者の氏名・住所を照会する「弁護士会照会」(弁護士法23条の2)を利用できる場合があります。住所が分かっていれば、直接、内容証明郵便を送ったり訴訟を起こしたりすることができます。

交際中に相手の言動に違和感を覚えたら、LINE以外の連絡先(電話番号)や住所、勤務先を確かめておくことが、いざというときの備えになります。

怒りにまかせたSNSでの公表は、逆に訴えられるリスクがある

だまされた怒りから、相手の名前や行為をSNSで公表したくなるかもしれません。しかし、2025年10月に大阪地裁で判決が出た事案では、独身と偽った男性に55万円の賠償が命じられた一方、被害を受けた女性の側も、SNSでの公表が名誉毀損にあたるとして34万円の支払いを命じられたと報じられています。責任の追及は、法的な手続きの中で行うのが鉄則です。

相手の妻から慰謝料を請求されるリスク

だまされた側であっても、相手の妻から「夫と不貞行為をした」として慰謝料を請求されることがあります。独身だと信じたことに落ち度がなければ責任を負わないと考えられます。独身偽装とは異なりますが、最判令和8年6月5日(裁判所ウェブサイト)は、既婚者との関係について、婚姻関係が破綻していると信じかつ、信じたことに相当な理由があれば過失はないとの判断を示しており、相手の説明を信じたことに合理的な理由があったかが重要な要素となります。そのためにも、相手が独身だと偽っていたことを示すやり取り(メッセージ、プロフィール画面など)を残しておいてください。

子どもの認知と養育費、そして時効

子どもが生まれた場合、相手が既婚者であっても、父親として認知を求めることができます(民法779条・787条)。認知によって法律上の親子関係が生じれば、養育費を請求することも可能になります。

なお、慰謝料の請求権は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります(民法724条)。相手が既婚者だと分かったら、早めに動くことが重要です。

だまされたとき、弁護士に依頼してできること

独身偽装の被害についてご相談をいただいた場合、状況に応じて次のような対応が考えられます。

  • 相手の特定:電話番号などの手がかりがあれば、弁護士会照会などの方法で、相手の氏名・住所の調査を試みることができます
  • 慰謝料の請求:まず交渉での解決を目指し、まとまらない場合は訴訟を検討します。婚約の成立を裏づける証拠の整理もお手伝いできます
  • 認知・養育費の請求:お子さまがいる場合は、認知と養育費の請求についてもご相談いただけます
  • 相手の妻から請求を受けた場合:だまされていた事情をもとに、支払いの拒否や減額を求めて交渉することが考えられます

どの手段が取れるかは、手元にある情報や証拠によって変わります。やり取りの記録は削除せずに保管したうえで、早めにご相談ください。

まとめ

独身と偽って交際し、結婚の期待を抱かせることは、相手の人生を大きく狂わせる行為です。相次ぐ判決は、そうした行為に法的な責任が伴うことをはっきり示しています。

アプリで出会うことが当たり前になった今、交際の早い段階で独身証明書を見せ合う、LINE以外の連絡先や住所を確かめるといった自衛策も欠かせません。それでも被害に遭ってしまったら、一人で抱え込まず、SNSで公表する前に、まずはアークレスト法律事務所にご相談ください。

※本コラムは2026年9月末時点の情報に基づいています。

監修者

山下 晃生 弁護士

第二東京弁護士会所属(登録番号:58233)

岡山県立岡山朝日高校卒業、中央大学卒業、明治大学法科大学院修了。

平成29年司法試験に合格、平成31年1月に弁護士登録し(71期)、神奈川県の法律事務所に入所。離婚問題を主に取り扱う。

令和2年3月に弁護士法人アークレスト法律事務所に入所し、その後ネットトラブル及びオフィスの原状回復請求減額交渉を中心に幅広く関わる。

ゲーム・アニメ・同人文化にも明るい。

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