こんなニュースがありました
2026年7月に熊本県で起きた地震の後、SNSに広がった真偽不明の投稿約20件を、鳥取県が見つけて熊本県に伝えていたと報じられています。「地震は人工的に起こされた」「外国人の窃盗グループが集まっている」といった投稿や、生成AIで作られたとみられる被災地の映像、水道の復旧や避難者への支援についての誤った情報などがあったといいます。熊本県は、すぐに削除を求めるほど緊急性の高いものはなかったと判断し、警察と情報を共有しました。
ニュースの背景を解説
災害のたびに、同じ型のデマが広がる
2026年7月28日の地震は、熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震で、最大震度7を観測しました。気象庁は「令和8年熊本地震」と名づけています。
大きな災害のたびに、SNSでは似た型のデマが繰り返し現れます。総務省の情報通信白書によると、2024年1月の能登半島地震の際、X(旧ツイッター)では、偽情報・誤情報に関わるものとして次のような投稿が確認されました。
- 「人工地震」に関する投稿:約10万件
- 救助要請に関する投稿:約2万1千件
- 偽の寄付の呼びかけ:約350件
- 「窃盗団」に関する投稿:約200件
閲覧数を稼いで収益を得るために、他人の投稿を複製したものが多かったとされています。被災地での調査では、SNSの利用者の51.9%が真偽の不確かな情報を見て、9.2%がそれを拡散していました。
自治体は「打ち消す」ことで対抗している
鳥取県は2024年に「フェイク情報対応実証チーム」を立ち上げました。専用のツールで拡散している言葉を集め、県が持っている情報と照らし合わせたうえで、県のホームページや公式SNSで正しい情報を発信します。表現の自由に配慮して、投稿の真偽を判定することはしない方針です。
総務省の検討会に示された分析では、災害時のデマの拡散は発生から72時間以内に集中し、事実の情報で打ち消されると急速に収まる傾向があります。早く、正しい情報を出すことが、何よりの対策になるということです。
流言は、現実の被害につながってきた
災害時の流言は、ネットの時代に始まったものではありません。国の中央防災会議の報告書は、関東大震災の際、外国人が暴動を起こしたという流言を背景に、多くの人が殺傷された事実を記録しています。東日本大震災でも、「外国人の窃盗グループが荒らし回っている」という流言が広まり、警察が打ち消しに動きました。
注意点・弁護士の見解
SNSを利用する方へ:偽の救助要請は犯罪になる
能登半島地震では、倒壊した家屋に閉じ込められた人の救助を求める偽の投稿をした人が、偽計業務妨害の疑いで逮捕され、罰金の略式命令を受けたと報じられています。投稿を受けて警察が出動し、捜索したものの、救助を求める人はいませんでした。
偽計業務妨害罪(刑法233条)は、うそを広めて他人の業務を妨げる罪で、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています。2016年の熊本地震の際には、「動物園からライオンが逃げた」という投稿をした人が、同じ罪の疑いで逮捕されました(後に起訴猶予)。
善意の拡散でも、救助の手を奪う
「助けを求めている人がいるなら、少しでも広めたい」。そう考えて拡散する人がほとんどでしょう。しかし、うその救助要請が広まれば、警察や消防は現場に向かわざるを得ず、その間、本当に助けを必要としている人のもとへ向かうのが遅れます。情報通信白書でも、救助要請を受けて出動したものの、要救助者がいないケースが多かったと報告されています。
自分ならデマを見抜けると考えている人ほど、注意が必要です。総務省の調査では、生成AIで作られた偽の映像を「見破れる」と答えた人ほど、テストで全問不正解だった割合が高く、61.5%にのぼりました。
内閣府は、情報の確かめ方として、ほかの情報と比べる、誰が発信したかを確認する、いつの情報かを確認する、元の情報(一次情報)を確かめる、の4つを挙げています。災害の情報は、自治体や報道機関の発信で確かめる習慣をつけてください。なお、他人の投稿をそのまま拡散しただけでも法的な責任を負うことがある点は、選挙とSNSの偽情報について扱ったコラムでも解説しています。
「外国人」などの集団に向けたデマは、罰せられにくくても許されない
名誉毀損罪は、特定の人や会社の社会的な評価を下げることで成立します。そのため、「外国人の窃盗団」のように、特定の個人を指さない集団に向けたデマは、名誉毀損として罰することが難しいのが実情です。いわゆるヘイトスピーチ解消法にも罰則はありません。
それでも、法務局は特定の民族や国籍の人々を排斥する言動を人権侵害として扱い、プロバイダに削除を求めています。過去の大震災が示すとおり、こうした流言は人を傷つけ、ときに暴力にまでつながります。罰せられないから広めてよい、ということには決してなりません。
デマで名指しされた店舗・企業・個人の方へ:最初の72時間が勝負
災害時のデマは、特定の店舗や企業、個人を名指しすることがあります。2026年の熊本の地震の後にも、ある事故をめぐって、まったく無関係の企業がSNSで名指しされ、否定の声明を出す事態が起きました。
デマの拡散は最初の72時間に集中します。名指しされたら、次の順で動くことをお勧めします。
- 公式に打ち消す:自社のホームページや公式SNSで、事実と異なることをはっきり発信する
- 記録を残す:投稿のURL、日時、アカウント名、画面を保存する(削除された後では、証拠を集めにくくなります)
- SNSに削除を申し出る:X(旧ツイッター)などの大規模なSNSは、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)により、削除の申出を受けてから7日以内に対応を判断して通知することが義務づけられています
- 公的な窓口に相談する:法務局の人権相談(みんなの人権110番)や、悪質なものは警察へ
事実と異なる投稿で店や会社の評判を落とされた場合は、名誉毀損罪(刑法230条1項)や信用毀損罪(刑法233条)にあたる可能性があり、投稿者を特定したうえで損害賠償を求める道もあります。ただし、「デマのせいで売上がいくら減った」という営業上の損害を証明するのは簡単ではありません。日々の売上や問い合わせの記録を残しておくことが、後の請求の支えになります。
制度はまだ追いついていない
総務省の検討会の取りまとめでは、存在しない災害の偽画像や、「災害時に外国人が犯罪を行っている」といった偽情報は、違法ではない「有害情報」に分類されています。災害時に限って、投稿で収益を得る仕組みを止めるよう事業者に求めることも検討されていますが、制度はまだ整っていません。鳥取県は、災害時の偽情報も法律の対象にするよう、国に要望しています。
災害デマの被害に、弁護士ができること
- 削除の申出:名指しされた投稿について、SNSの運営者に削除を求めていきます。大規模なSNSの7日以内の対応義務を踏まえて、速やかに申し出ます
- 投稿者の特定:発信者情報開示請求や裁判所の開示命令の手続きにより、投稿者の特定を目指します
- 損害賠償・刑事告訴:投稿者が特定できた場合の損害賠償の請求や、告訴に向けた証拠の整理について、ご相談いただけます
ネット上の投稿の削除や投稿者の特定は、弊所が特に力を入れている分野です。被害に気づいたら、記録を残したうえで、早めにご相談ください。
まとめ
災害のとき、SNSは安否の確認や支援の呼びかけに欠かせない道具です。だからこそ、そこに紛れ込むデマは、救助を遅らせ、人を傷つけます。広める前に一呼吸おいて、発信元を確かめる。それだけで、防げる被害は少なくありません。
デマで名指しされてしまった店舗・企業・個人の方は、最初の対応がその後を左右します。お困りの際は、アークレスト法律事務所にご相談ください。
※本コラムは2026年9月末時点の情報に基づいています。
監修者
山下 晃生 弁護士
第二東京弁護士会所属(登録番号:58233)
岡山県立岡山朝日高校卒業、中央大学卒業、明治大学法科大学院修了。
平成29年司法試験に合格、平成31年1月に弁護士登録し(71期)、神奈川県の法律事務所に入所。離婚問題を主に取り扱う。
令和2年3月に弁護士法人アークレスト法律事務所に入所し、その後ネットトラブル及びオフィスの原状回復請求減額交渉を中心に幅広く関わる。
ゲーム・アニメ・同人文化にも明るい。

